奈落に面する<米国-東アジア>
ヨハン・ガルトゥング

 朝鮮戦争(1950-53)以降、これほど悪い状況はなかった。
 1962年10月のキューバ/ソ連/米国の危機が思い起こされる。キノコ雲の恐ろしい光景が想像された。近い過去[1959]での社会革命を経て強力なリーダーシップのもとにあった誇り高いキューバは、国家システムにおいて正常な地位を占めることを拒否され、米国とその同盟諸国による経済制裁とボイコットの苛めを受け、いまに至るも、こうした状況が50年以上も続いているのだ。
 米国がミサイルをソ連近傍のトルコに配備したのと同様に米国近傍に核兵器搭載ミサイルをソ連は船舶輸送した。そしてその中に解決策があったのだ――最終的にマクナマラが暴露したように、秘密交渉において、売りことばに買いことば、つまり一方の核の脅威に対するに他方の核の脅威という形で。
 1962年には3ヵ国が関与していた。現在の危機は5ヵ国が関与している。つまりペンタゴン(5角形)である。そして、そのうちの3ヵ国――2ヵ国ではなく――が核兵器国である。そこでは、米国・日本および米国・韓国という同盟関係に対して中国・朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)という暗黙の同盟関係が対峙している。
 そこでは未解決のトラウマが存在している。朝鮮半島を植民地化し(1910-45)、中国と米国を攻撃した日本。日本に原爆を使用し(1945)、日本と韓国を占領した米国。韓国を攻撃した北朝鮮。これに対し米国と国連軍(司令官マッカーサー)は反撃し、中国も参戦。1953年に休戦協定が結ばれ戦闘は終結。以後60年、統一のための苦闘が続けられてきた。しかし一方、毎年、北朝鮮に近い地域で米韓合同軍事演習(Team Spirit)が行われてきた。より最近では、米国と中国が世界経済でのNO.1の地位を競い合い、米国はEUとTPP(環太平洋連携)との経済同盟を樹立しようとし、日本と中国は釣魚・尖閣諸島をめぐって紛争状態にある。そしてそれらの頂点に、北朝鮮の核兵器による威嚇があるのだ。それは他を灰塵に帰せしめようとするファシストのようである――いまのところ言葉の暴力に止まってはいるが。
 しかしながら、こうした背景に拘わらず、「3」対「2」のペンタゴンを和らげるいくつかの方法はある。
 韓国のPusan National Universityの Dae-Hwa Chung教授がニューヨーク・タイムズに送った署名記事によると、60年に亘る紛争において、韓国と米国は共謀して北朝鮮を苛め、平和条約と関係正常化から引き離してきた。彼の基本的な論点は次のようだ。ソ連は北朝鮮から手を引いた。しかし米国は中国を包囲するため韓国から手を引かなかった。ソ連と中国は韓国を承認した。国連は南北朝鮮を承認した。しかし、米国と日本は相互承認の条約締結に失敗し、北朝鮮を決して承認せず、韓国とは平和条約を結び、事実上の同盟関係に入った。
 こうしたことがなぜ起ったのか人は不思議に思うに違いない。南北朝鮮とも独裁的であった。韓国が民主化したのはようやく1990年代になってからである。米国は北朝鮮を心底から嫌っていた。なぜなら、独立戦争(1812)以来の米国の戦争勝利の連鎖を、降服しないことで北朝鮮が断ち切ったからである。日本および韓国と共に米国はその体制崩壊を待ち望んでいたのだ。1989-90年のドイツ民主共和国(DDR)の崩壊・ドイツへの吸収以後、とくにそうであった。
 暗い推測ができる。日米両国とも朝鮮半島での戦争の敗北の経験がある。日本については、1590年代での将軍秀吉のもとでの敗北、1945年の米国とソ連に対する敗北である。米国については、1953年の勝利できなかった経験である。両国のタカ派は対立を継続し、報復戦争に火をつけることで自身のトラウマを癒そうとするかもしれない。もちろん今回は、敗北ではなく勝利しようとする――1961年のキューバのBay of Pigsの二の舞ではなく。日本のタカ派――何人かは安倍政権のもとにいる――にとっては、現在の危機は彼ら自身の国の「正常化」のまたとない機会である。すなわち、彼らは、日本から戦争権を奪い去った憲法第9条を破棄し、1910-1931-1945の日本の蛮行を認めることによる南北朝鮮および中国との和解を洗い流そうとするであろう。過去の蛮行を認めることとは正反対の方向で、彼らは日本の若者に自身の国に誇りを抱かせようとするであろう。
 このような強い実存的な動機が北朝鮮の人々の心に火をつける一方、米国および日本は非妥協的であり、ゆえに将来の見通しは暗い。
 しかし、いかに遠くとも、希望のかすかな光を見よう。
 1962年のキューバ危機の時のような二者間取引は難しい。なぜなら、米国がトルコを利用し、ソ連がキューバを利用し、それによって相互取引を行ったことは、対称的であった。必要不可欠な平和条約・正常化を得ることの見返りに北朝鮮は何を与えることができるだろうか? IAEA(国際原子力機関)の信頼できる査察がその通常の回答であった。しかし、その運用限界を超え、いまや北朝鮮は核保有国である。
 北朝鮮は、その言葉上・実際上の威嚇を放擲し、その見返りに平和条約と正常化を期待することが可能ではあろう。しかしそうしたとしても、1962年[キューバ危機]にそうであったように、他方への一つの良いこととはならないだろう。反対に、他方への一つの悪いこととなるだろう。結果を指図することに慣れ、見返りに何も与えることのない米国は、果して同意するだろうか? 1962年のように、「勇気ある物語のように見せかけ」、秘密裏に事を運んでいるのだろうか? 何らか秘密裏の取引が行われていることを期待したいが、それはありそうにない。
 5ヵ国全体を含む多国間取引は、グッヅ(goods)とグッヅ(goods)を交換し、国際的なコンヴィヴィアリティ(日本語で言う「共生」)に寄与し、それこそが本当の意味でのTeam Spiritであろう。具体的には、こうした(北)東アジア共同体は、中国、台湾、香港-マカオ、日本、朝鮮半島、そしてモンゴル、極東ロシア他、さらに多くの地域を含むものになろう。
 共同体は、米国と太平洋諸国に対して、中国および完全に承認された北朝鮮にまでTPPを拡張することによって、衡平性を関係づけることになろう。沖縄は(北)東アジア委員会の所在地、ハワイはTPP委員会の所在地として貢献しうるであろう。釣魚・尖閣諸島はその排他的経済水域とともに(北)東アジア共同体に属することになろう。中国/日本がそれを所有し、そこから得られる収穫物をシェアし、その一部は共同体維持のために供されるであろう。そこには対等で平等な利益があり、全ての人々に得るものがあるだろう。
 これはしかし、ゼロサム・ゲームや勝利中毒――現在では5ヵ国すべてに見られ、こうしたゲームに油を注ぐために愛国心が煽られている――に慣れた精神には一つの問題である。1950年のヨーロッパに見られたような精神の変革が必要である。それには数世紀がかかるかもしれない。しかし開明的な政治指導の下ではきわめて速やかに行われうるであろう。現在、5ヵ国はそのための資質を欠いている。しかしNGOやメディアに鼓舞され、共同開催のサミット会議は、どうだろうか?
15 Apr 2013- TRANSCEND Media Service
(立命館大学非常勤講師 藤田明史訳)