2つの人災:日本とリビア

(Two Human Made Disasters: Japan and Libya)

2011年3月11日

ヨハン・ガルトゥング(トランセンド共同代表)



1. 日本

 母なる大地が、怒ったのかどうかはともかく、その猛威を見せ付けた。太平洋プレートが日本列島のあるプレートの下にもぐりこむと、その衝撃は日本の近代の歴史にこれまでなかったようなすさまじい大地震となった。マグニチュード9.0。予期できなくはないが、正確にいつ・どこで起こるかの予知は依然として不可能である。動物たちには分るようだ。しかし、それにしても危険を知らせる時間はあまりにも短い。

 日本列島に高層ビルと低層の55基の原子力プラントが建てられた。たわんだ桜の木の枝を溶けた雪が滑り落ちるようだ――膨大な量の鉄とセメントの間を。ビル群はしなやかで頑丈だ。低振幅と低周波の波によってビルが丸ごと振動し、食器棚や収納棚から物が落ちる他は、最後には何事もなかったかのようにまっすぐに立ち直った。ビル群は、揺れ動く地面の上で、破壊されないために自ら揺れたのだ。素晴らしい仕事だ――ある点までは。しかし、かつてヒロシマ・ナガサキの二つの都市で核によるジェノサイドを受けた人々からの警告は、耳を塞いだ人々には届かなかった。

 日本の原子力発電所は、海水による冷却のために、そのほとんどが海辺に設置された。今や、過去最多の原発が建てられている。大洪水を起こそうと待ち構えている高波に「ツナミ」という名を与えた国に、である。グラウンド・ゼロ(震源)――地震と同様、海震の意味を曖昧にする言葉だが――は、海岸から130キロの地点にあった。高さ7メートル、毎時700kmのスピードのツナミが、650キロの海岸線を内陸10キロにまで直撃した。人口100万の都市・仙台にもゆっくりと侵入し、すべてのものをなぎ倒し、生命あるものを呑み込み、建物を平らげ、内陸部に達した。そして引き波となり、ゆっくりと、家々、車、トラック、バス、飛行機、工場、遺体、最後の数分間を生きた人々を根こそぎさらい、橋や道路を砕き、もと来たところに押しやった。太平洋はやっと鎮まったが、次の狙いを定めていた。福島第一・第二原発群は地震の揺れによってよりも、津波の浸水によって破壊された。4,000度のメルトダウン(炉心溶融)の可能性によって日本自体が恐怖に慄いている。

 津波が襲来する可能性を知り、核の信捧者たちに「やめろ!」と大声で叫ぶことのなかった科学者たちは、犯罪的な無視を行ったのだ。

 かつて学生の頃に化学と物理学を学んでいた私は、自然の謎を解き明かすための様々な深遠な技法を知っているが、それらは信じられない程の視野の狭さと思い上がりとの中にある。こうしたきわめて不吉な「主体なき行為」(act of omission)は天に向かって叫ぶのだ。私は国家の中枢にある者たちや「危機管理の専門家たち」と呼ばれる人々が、少しでも反省を行うことは全く期待しない。彼らは、1973年の石油危機のときも、1989年の冷戦終結のときも、2001年9月11日のニューヨークとワシントンDCでのビルへの体当たり攻撃のときも、「これは誰も予期することが出来なかった」というお決まりの言葉を繰り返しただけであった。すべては、十分に予測できたのに。

 強い権益や金を貯めこんだり捻り出したりしようとしたことによって塞がれた耳には警告は届かなかった。原子力発電所の裏側では、核兵器を製造することができる。日本のタカ派たちは、日本を「正常化」するこのやり方から甘い汁を吸い、北朝鮮との紛争を熱いまま長引かせてきた。ウェスティングハウスやGEといった資本は、1979年のスリーマイル島の大惨事で打撃を受けた。日本政府は貿易黒字を減らそうと彼らに誘いかけたのだろうか? いずれにせよ、科学者たちは名声と権力を持っている。黙っていることを恥とせよ。動物たちの方がまだ利口だ。危険を知らせる時間は短くても逃げようとするから。

 我々は、犠牲者とその遺族の方々に心から涙する。日本の人々のたくましい回復力はよく知られている。桜の木は再び頭をもたげ、花を咲かせるだろう。短期取引に鼻の利く金融界のハイエナたちが、人為的に「グローバリゼーション」に開かれた日本の株式市場から遠ざけられるならば、日本経済は潤い、復興が可能となろう。

 我々は、祈り、望む、1986年のチェルノブイリが二度と引き起こされないようにと。止めよ!もうたくさんだ。

 我々はもうじゅうぶんに解った。全ての原子力発電所を閉ざすべきだということを。代わりの方法がいくつもあるのだから。


2. リビア

 日本の海辺から遠く離れたリビアの海岸で、1956年にイスラエル・英国・フランスがエジプトと戦った戦争が、今まさに再現されている。主役を演じた当事者であったイスラエルが参加せず、最も影響力の大きなアクターであるアメリカ合衆国が加わり、さらに国連安全保障理事会の7つの理事国が加わった形で。それに米国はまた、クラウゼヴィッツの「全ての必要な手段によって」事を起こそうとしている。投票を棄権した安保理の5つの国々は加わっていない。ロシア、中国、インド、ブラジル(即ちBRIC(s))、それにドイツである。これらの国々が結局は勝者になるのではないか?

 西洋の主な諸強国は、カダフィ大佐が1969年にイドリ―ス1世王を廃位させて以来、よだれを垂らして彼を買収しようとしてきた。フランス旗の三色を用いたイドリースの古い旗が今、ベンガジに翻っている。誰が反カダフィ勢力を支持しているかを我々は間もなく見ることになろう。彼らにはもっともな理由がある。しかし、リビアの現状を、横暴な独裁者に対して蜂起しているのだ、としか見ない者は、地震のときに津波は来ないと考える者と同じである。人道的という理由付けが前もってあろうとなかろうと、国連を英米やフランスの政治目的のために利用することは、何ら歴史的なことではない。2年前にバーレーンの上空を航空禁止区域にすることや、ましてやガザの上空をそうすることは歴史的なことであったかもしれない。しかし、本来、国連はそういった目的のために創設されたのではない。今日ではなお一層、そうである。

 アフリカ連合とアラブ連盟の「主体なき行為」は、天国に向かって叫ぶのみである。リビアはこの両方の機関で主要な参加国の一つである。ごく初期の段階から、これらの機関は仲介を申し出ることが出来たはずである。もし拒絶されたとしても、「平和強制」の部隊ではなく、平和維持のための部隊として、陸・海・空から介入することを正当化しえたはずである。しかし、彼らはこのゲームを、十分に試練を経た、しかし見る影もなくみすぼらしい容疑者に委ねてしまった。恥を知るべきだ。次はもっと上手くやることだ。これからそうした機会がたくさんあるだろうから。

 停戦は拒絶された(1986年(?)には彼らはカダフィの娘のところに赴いたようだが、今回はカダフィ本人のところへ赴いた)。激しい矛盾の只中にある国にあっては、また更なる西洋の侵略に対する怒りで動揺しているアラブ世界(エリートは除く)にあっては、それは当然であろう。しっぽを振って付き従うプードルのようなノルウェー(今やムスリム国家に対する三度目の戦争になる)も加わった。「使命は達成された」の言は、彼らからすり抜けるだろう。イラクやアフガニスタンでそうであるように。




無数の犠牲者を伴うリビア10年戦争となるのだろうか? そうなってしまうことが実に恐れられるが、そうならないように願いたい。

 今、BRIC(s)+ドイツの登場が請われている。棄権することは十分ではない。大きな歴史の流れの側に立つべきだ。即ち、西欧諸国・米国・イスラエルの支配から、史上最も大きな不平等と窮乏をひき起こしている経済から、そして専制政治からアラブを解放しようとする側に立つべきである。棄権した5カ国は、こうした社会病理との闘いを経験してきたはずだ。

 BRIC(s)+ドイツ、すなわちA5。君たちの出番だ。どうか、上手くやってくれたまえ。



Transcend Media Service
http://www.transcend.org/tms/2011/03/two-human-made-disasters-japan-and-libya/

<試訳:野島 大輔、 監訳:藤田 明史 =トランセンド研究会所属>


試訳者コメント

①2008年の段階において、大学の平和学講座向けに書かれたシリーズ・テキストのうちの ”50 Years 100: Peace and Conflict Perspectives” の第97項 ’Energy Conversion (エネルギー転換)’ について、ヨハン・ガルトゥング共同代表は、核エネルギーについても、自然エネルギー群と並べ次世代のエネルギーの候補の中に一応は残しておく方針の記述を施しています。この本の発刊の際、欧州平和大学の留学中にちょうどこの点について個人的に質問をしましたところ、「『核だから』という理由だけで完全に可能性を排除することはしたく無いのだ。」との答が返ってきました。
 また後日、京都での会合では、’Natural Violence’ (自然的暴力)の概念を想起中であり、津波も当然その中に入るが、人智を尽くして何とかそのエネルギーを利用できるような道が無いかと考えている、とも述懐していました。仮訳者はTranscend Japanの理事の一員として、ガルトゥング平和学を基礎に据えた平和運動に参画していますが、僭越ながらこの2点については、共同代表の見解に多少の違和感を覚えたことを思い出します。
 本稿(学術論文ではありませんが)においては、明らかに原発の全廃を提示しているように読めます。福島の原発の事故が、かなりのインパクトを持って共同代表に受け止められたのではないかと想像します。

②カダフィ大佐の娘は、弁護士であり、国際機関での活動歴もある人物といわれます。